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を認め、尊重し、肯定的なストロークが与えられるとき、サポートされていることが実感される。ケアを提供する側もケアされることがいかに重要であるかが再確認された。そして、「患者を中心に置いたとき、互いの闘争心を越えて、協力し合える」という言葉は、今後のチームづくりに勇気を与えられるものであった。
6.緩和ケアの教育
ケアの質を向上させ、ホスピス運動をさらに広めていくために、臨床の確立とともに教育活動を進めていくことはたいへん重要である。本セミナーにおいても教育に関する講義とともに、参加者同士でカリキュラムを作り上げるワークショップがあった。
英国の緩和ケア専門医であり教育者でもあるFinlay先生が「緩和ケアのためのトレーニング」について講義された。先生は、1969年と1987年における患者の症状を比較し、がん患者においては症状が減少しているという英国でのデータを示しながら、緩和ケアにおける継続教育の必要をまず述べられた。
緩和ケアの教育は、最初に患者に接するプライマリ・ドクターが身につけなければいけない基本レベルから、専門医、さらにコンサルタントとしての高次レベルまで、段階によって教育のゴールは異なる。カリキュラムを構成する基本内容は、病気のプロセス、痛みその他の症状のマネージメント、薬物療法、心理・社会的問題へのアプローチ、コミュニケーションスキルの向上、文化的・宗教的側面への対応、倫理の問題など多方面である。しかし、単に知識・技術の向上だけでなく、自分自身が危機状況に対処できる力やチームケアに参画できる力など、人間としての成長を目指すものでなければならない。また、意思決定における倫理に関して、問題を中立に判断できるバランス感覚を教育することの重要性も強調された。
緩和ケアにおける私たちの役割は、患者が人間として快適に過ごせるよう援助することであるが、同時に、死を受容し、生を尊重する態度を育てることも忘れてはならない。そして、緩和ケアとは「希望の哲学」であると述べられた。さらにまとめとして、ペプシコーラの缶のスライドを示しながら、緩和ケアを“ペプシチャレンジ”という興味深い言葉で説明された。つまり、P=Physical,E=Emotional,P=Psychosocial,S=Spiritual,I=Intellectual Chanengeである。
そして、教育について言及するならば“ダイエット”でなければいけない。つまり、D=Do it,I=Investigate what you do,E=Evaluate what you are doing,T=Teach each other as much as you canと。
この“ペプシ・ダイエット・チャレンジ”は、緩和ケアとその教育の真の意味を示す興味深い結論であった。
アジア太平洋地域のホスピス緩和ケア
セミナーではこのほか、緩和ケアとヘルスケアシステム、倫理の問題、またホスピスの設立を仮定してのワークショップなど、さまざまなテーマが取り上げられ、活発な意見交換が行われた。
セミナーには、アジアの各国、オーストラリア、さらに南アフリカからの参加者もあり、社会・文化背景の異なる国々の人々とのディスカッションはたいへん興味深いものであった。また、これまでホスピス緩和ケアというとイギリスやアメリカ、オーストラリアなどに目が向きがちであったが、今、アジアの各国で、それぞれの形で、ホスピスケアが成長していることを実感するセミナーであった。
シンガポールのアッシジホスピスの医療部長であり、アジアにおけるホスピスケアのリーダー的存在であるCynthia Goh先生は、学術会議の特別講演で「アジアにおけるホスピスケア」と題して、その歴史と現状を話された。先生は、日本、台湾、香港、シンガポール、韓国などで、ホスピスケアが着実に発展している様子をスライドで示

 

 

 

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